戦争と言えば国家間の争いであり、兵士は「祖国のために」戦うものと考え勝ちですが、これは19世紀以降に定着したイメージ。それ以前のヨーロッパの多くの戦争は「傭兵」という金目当ての多国籍軍によって担われていました。
傭兵の歴史は意外と古く、市民兵中心のはずのギリシャ時代にも存在したそうです。中でもクーデターを企むペルシャ王子キュロスに雇われて、1万3千のギリシャ兵を遠方に派遣したクセノフォンは傭兵隊長第1号と言うべきか。
膨張するローマ帝国。しかし国境を守る防衛軍の主力は傭兵に。映画「キング・アーサー」でも「円卓の騎士」はローマの傭兵部隊としてけっこうリアルに描かれてましたよ。とくに3紀以降は屈強なゲルマン人が好んで採用されるように。476年西ローマ帝国がその傭兵隊長オドアケルによって滅ばされたのは有名な話ですね。
中世は騎士の時代。土地獲得のためならばと「主君のために」命をかけました。しかし、貨幣経済が発達し、土地が不足してくると、主君への軍役奉仕のかたわら傭兵のアルバイトに精出す騎士も出没する始末。11世紀の十字軍は金に困った騎士たちの良い稼ぎ場であったとか。中世末期になると火器や長弓の採用で歩兵の集団戦法が中心になり、「一騎打ち」はますます時代遅れに。
14世紀以降はいよいよ傭兵の時代といってもよいでしょう。なかでもスイス人傭兵の活躍が目立ちました。耕地に恵まれないスイスでは傭兵が重要な産業で、特にフランスに出稼ぎする人が多かったようです。フランス軍のために命を落としたスイス人は50万人。今日の銀行産業の隆盛は彼らの「送金」にその起源があるとも言われてます。今もバチカンを守る100人の兵士はすべてスイス人だとか。
これに対抗するように15世紀から17世紀にかけて活躍したのがドイツ人傭兵「ランツクネヒト」(Landsknecht)でした。槍や銃を担いだ歩兵部隊でしたが、彼らは遠目にも一目瞭然でした。派手な羽飾りのついた帽子に、袖をふかふかに膨らませた上着。男根をこれ見よがしに強調したズボンの前当て。なんだか異様ですね。でもこのいでたちこそ故郷を捨て、封建的身分のしがらみから「自由」になったことへの彼らの矜持を表していたようです。
ランツクネヒトたちの運命は傭兵隊長の手中にありました。傭兵隊長は言わば戦場のプロデューサー。スポンサーを探し、兵士を組織し、勝利に恵まれると莫大な報奨金を得ました。今で言うと一攫千金をねらうベンチャービジネスの創業者といった感覚でしょうか。16世紀後半には、常に予備兵を抱え、注文に応じていつでも大量に兵を動員できる戦場企業家が出現しています。その頂点に立ったのがドイツ三十年戦争の主役のひとりワレンシュタインでした。
彼がこの戦争のためにかき集めた傭兵の数はなんと15万人。雇い主神聖ローマ皇帝ですら彼の部隊には口出しできなかったようです。この戦争における傭兵の残虐ぶりはつとに有名ですね。戦利品や捕虜目当ての敗残兵狩りは過酷を極めました。行く先々では強盗まがいの食料の調達を行い、戦争に勝てば欲しいままに略奪を繰り返して少ない給料の足しにしたとか。正規部隊ですらそうですから、落伍兵や解雇兵が手におえない無法者と化すのは想像に難くないでしょう。三十年戦争でドイツは立ち上がれないくらいの打撃を被りました。
絶対王政期、各国は財力にものを言わせて「常備軍」の育成に力を注ぎ始めました。傭兵の時代は終わったのでしょうか。いや常備軍の中身を見てみますと、そうとは言えないことがよくわかります。例えば30万人を擁したルイ14世の常備軍の約半分は外国籍であったし、フリードリヒ2世のプロイセン軍にいたってはその3分の2が外人部隊で占められていました。
本当の意味での傭兵の消滅はフランス大革命を待たねばなりませんでした。1792年8月オーストリア軍と通じていたルイ16世をチュイルリー宮殿に襲撃した革命勢力は、忠実に王を守ろうとした4万のスイス兵を解雇しました。武器を取ったのは「祖国」フランスを守ろうと集まった素人同然の寄せ集め部隊。しかしその彼らが見事にオーストリア・プロイセン同盟軍を打ち破りました。全土に「国王万歳」ではない「国民万歳」の声が鳴り響いたとか。歴史上初めて「国民軍」が誕生した瞬間でした。ナショナリズムの19世紀、傭兵は国民軍のなかに埋もれていきました。
だが21世紀の現代、その傭兵が密かに息を吹き返しつつあるようです。舞台はイラク。3月ファルージャで殺され焼死体を引きずりまわされた4人のアメリカ人は、実は民間戦争企業の社員だったようです。現在約60社2万人の民間兵が正規米軍を背後で支えており、イラク駐留・復興予算の約3分の1はこうした企業に流れているとか。殺されても死者の数に入らず、戦場で不法行為を行っても表ざたにならない、傭兵の役割は今後ますます増えていくのかもしれません。
「戦争のアウトソーシング」が行き着く先はどこでしょうか。それはナショナリズムとどう折り合いをつけるのでしょうか。「傭兵の歴史」は私たちにそのヒントを教えてくれているのかもしれませんね。
参考にしました
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ドイツ傭兵(ランツクネヒト)の文化史―中世末期のサブカルチャー/非国家組織の生態誌 ラインハルト バウマン, Reinhard Baumann, 菊池 良生 Amazonで詳しく見る ![]() |
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