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知られざる園芸大国の素顔 世界史小ネタ第89回

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イギリスと言えばガーデニング。隅々まで手入れされたボーダーガーデンが競うように道行く人々の視線を誘います。毎年開かれるチェルシーのフラワーショーには数十万人が集うとか。しかしそんなイギリスも数百年前までは決して緑豊かな国ではありませんでした。園芸大国はいつどのようにして誕生したのでしょうか。

冷涼な気候のせいか、16世紀初頭のイギリスで見られた草木類は200種ほど。これは当時の日本の二十分の一といいますから、こと植生に関しては大変貧弱だったわけです。ところが18世紀から19世紀にかけて彼らが七つの海に進出すると、熱帯産のランや日本産のユリなど、見たこともない華麗で多様な植物と遭遇するわけです。イギリス人たちはたちまちその虜になり、これらを自分の庭で咲かせたいと思うようになりました。でもこの願いは王立キュー植物園とそこで働く「プラントハンター」たちがいなければ実現不可能だったでしょう。

キュー植物園は1759年設立されましたが、その土台を築いたのはジョセフ・バンクス(1743~1820)でした。彼はキャプテン・クックのオーストラリア発見のきっかけになった第1回世界周航に参加し、ボタニー湾(バンクスの命名)を中心に1400種もの新種植物を採集し、名声を獲得します。後に種痘法を発見するジェンナーはこのときの彼の助手。バンクスはその後植物園の経営に腕を振るうかたわら多数の有能な庭師たちを「プラントハンター」として世界各地に派遣しました。

その一人がスコットランド人フランシス・マッソン(1741~1805)でした。彼はクックの2度目の航海に便乗し、当時オランダ勢力下にあった南アフリカに上陸しますが、ここでリンネの弟子として知られるスウェーデンの植物学者ツュンベリー(1743~1828)に出会います。二人は協力して400種にも及ぶ植物の採取に成功。中でも50種類のケープ・ペラルゴニウムを持ち帰りましたが、これは後にゼラニウムとしてヨーロッパの街角には欠かせない花となりました。

デイヴィッド・ダグラス(1799~1834)は北アメリカ大陸を駆け巡り、驚異的な数の新種を本国に持ち帰り、ロバート・フォーチュン(1812~1888)は中国や日本にわたり、アネモネやキクをヨーロッパに紹介しました。チベットの山岳地帯に分け入って、シャクナゲやサクラソウの膨大な品種を採集したのはジョージ・フォレスト(1873~1932)でした。

しかしプラントハンターたちの本来の仕事は自国にガーデン熱を広めることではありませんでした。キュー植物園の創設から約一世紀の間に、カリブ海のセント・ビンセント島、ジャマイカ、トリニダッド、さらにはカルカッタ、マドラス、ボンベイ、シドニー、シンガポールなどに海外植物園が次々とが設立され、その園長として優秀なハンターたちが派遣されましたが、彼らの役割とは何だったのでしょうか。

カルカッタ植物園では、当時中国に独占されイギリスの金貨流出の原因となっていた茶の木の移植が課題でした。前述のフォーチュンは広東の奥地を密かに探検し、2万本の樹と1万7000個の種を持ち帰ることに成功。その苗はアッサムやダージリンに植えられ、インドにおける紅茶産業の出発点となりました。

1865年父の跡をついでキュー植物園の園長に就任したジョゼフ・フッカー(1817~1911)は後に「種の起源」を著すことになるダーウィンの大親友。彼の最大の功績はヘンリー・ウィッカム(1846~1928)を派遣してアマゾン奥地から大量のゴムの木の種子をハンティングさせたことでしょう。キュー植物園の温室で大切に育てられた苗はシンガポール植物園に移植され、やがてマレー半島全域をゴムプランテーションで埋め尽くすことになりました。

それだけではありません。コーヒー、綿花、サトウキビ、タバコ、カカオ、油やしなどもまた、戦略的商品作物として、この植物園ネットワークの中で開発され、大量栽培に成功した植物です。バイオテクノロジーなどなかった19世紀、これらの植物の原種を探し出すことは言わば大油田の発見に等しいことであり、これらを交配し新品種を作り出すことは宇宙開発に匹敵する国家プロジェクトであったに違いありません。

その最前線に立ったのがプラントハンターや植物園の庭師だとすれば、彼らこそ、大英帝国の植民地経営を底辺から支えた技術者たちであったと言えるのではないでしょうか。

参考にしました

プラントハンター―ヨーロッパの植物熱と日本
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森と庭園の英国史
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リンク

http://www.rbgkew.org.uk/index.html
王立キュー植物園の公式サイト

http://www.plantexplorers.com/index.html
PlantExplorers.com プラントハンターそのもを取り上げた貴重なサイト

http://internt.nhm.ac.uk/cgi-
Endeavour botanical illustrations クックのエンデバー号が持ち帰った植物画

http://www.rhs.org.uk/index.asp
王立園芸協会 

http://www.f
ウォードの箱 航海中、植物の枯死を防ぐために考え出されたと言う魔法の箱